誰かが誰かのためにできること

「ヘアドネーション」という言葉を聞いたことがありますか?
ヘアドネーションとは、病気や事故などで髪を失った子どもたちのために、
寄付された髪の毛でウィッグ(かつら)を作り、無償で提供する活動です。
この活動を知った私の友人は、子どもが生まれたときに
「いつか子供の髪を伸ばして、誰かのために寄付したい」と考えました。
動機は、その取り組みを親子でできたら素敵だなと思ったそうです。
それから時が経ち、娘さんは5歳になり、髪も長くなりました。
そろそろ物心もついてきた頃だし、ヘアドネーションについて話してみようと切り出すと、
娘さんの返事は予想外のものでした。
「絶対にイヤ!髪は切らない!」
どんなに説明しても納得がいかない娘さん。
無理に子供を説得することはできません。
そこで、母親はある人を思い出しました。
現在、抗がん剤治療を受けている友人です。
女性ですが副作用で髪を失い、ウィッグを活用している最中でした。
ありのままの彼女の話をきかせたら、子供でも考えるのではないか?
また大事な何かを感じてもらうと思ったそうです。
しかし、つらい闘病中の友人に話すのは迷惑ではないだろうかと
思いながらも、連絡をしてみることにしました。
するとその友人は、自分の病気のことなどが誰かの役にたつのならと、
快く承諾してくれて、自宅に招いてくれたそうです。
そして、5歳の娘さんに、やさしく語ります。
自分の病気のこと。
治療のために髪が抜けてしまったこと。
そしてウィッグがどれほど自分自身の助けになっているかなど。
実物をさわらせながら、5歳の子供でも分かる言葉で丁寧に
伝えたそうです。
その話を聞いた娘さんは、じっと考えた後、小さな声で言いました。
「じゃぁ、髪を切る!」
母親は驚きつつも、その決意の表情に胸が熱くなったそうです。
そして何よりも闘病中の友人の勇気。
病気や治療のことをその気持ちなど、子供に話してくれた時間そのものが、かけがえのないものになったと。
誰かの役に立ちたい――そんな純粋な気持ちは、
大人も子どもも関係なく、心のどこかにあるのだと思います。
母親が誰かのためにとこの取り組みをはじめて5年後、
病気と向き合う彼女は5歳の子どもに勇気を与え、
その娘さんは、誰かのために自分の髪を提供する決断をしました。
こうして生まれた「誰かのために」という優しさの循環はきっと世界につながっていく。
そんなあたたかな気持ちになりました。
私は、そんな優しい世界が大好きです。
(Writer CFP 蒲幸恵)